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「すごい渋滞」

ですね。もうほんとに、何しに来たのか。

「ずっとこのまま、もっと混んでてもいいな」

え。

「私は、てらさわ先生とこうしてお話できたら、混んでるのもいいなって。
あ、でも帰りもこんな混んでたら。遅くなっちゃったら門限、間に合わないかも」

……それは申し訳ないですね……家に電話してはどうですか?

「言い忘れてたけど泊まってくるって?」

なんてすいすいと言う彼女、私の同僚今年採用されたばかりの若い先生。
それはどういう意味なの?もしかして、そういうこと?
もともと泊まるつもりだったなんて家に連絡して、
その、このまま車で、お城のような、建物に行って、おーるろんぐないと。
むは!あんなことや!こんな!ことも!?

なんだか興奮してきたせいか、暑くなってきました。
おかげか、眼鏡が曇ってきました。クーラーはきいてるけどそれほど寒くない。
雨も降ってない。なのに曇る。おかしい。前が見えない。
そんな体温あがるほど興奮してる?
ここは悟られてはいけません。さりげなく話題をずらす。焦らすのです。
これ、さくらたんから教えてもらったオトナの方法。

窓でも開けましょう。はぁ良い空気。

眼鏡を外して左手でつまみ、右手の甲でちょっと目をがしごし。
その手から彼女ひょいと眼鏡をとりあげ。
少し充血した目で助手席を眺めると彼女顔はまっすぐ前向いて、
かわいらしいおててはスカートから覗く柔らかそうな大腿の上で軽く組んでいて。

あーそうか。そうゆうつもりですね。
これはそういう遊びですね。

しばらくして。

ってメガネないやーん!
……ちょっと眼鏡返してください。もういいでしょう?
今は大丈夫ですけど道が空いてきたら眼鏡、ないと運転できないじゃないですか。

「えっなんのこと?」

いや、眼鏡さっき取ったじゃないですか……。

そこまで言って気付いた私、とぼける彼女本当に知らないような顔付きで。
こんな顔演技でする意味が類推できません。
落としたのかな、と見回してみましたがシートの下、助手席はもちろん、
後部座席にも私の眼鏡、落ちてるなんてことはなく。

「窓から落としたのかな?」

や、でも落とさないように左手で眼鏡外したし、そんなことは……。

結局、眼鏡は見つからず、免許のない彼女に運転してもらう訳にもいかず
なんとか帰って来られたという思いだけでくたくたになってしまい、
彼女を送るのも眼鏡なしという何だか微妙に気まずく気味悪い空気になって
何とも後味の悪い最後の連休になってしまいました。

連休明け。
あ、そうだ出先で眼鏡屋さん探して買えば良かったんだとか
通勤途上に思い出して、ああ、なんて鈍いんだ私の脳みそ!
その瞬発力あの時に発揮していたら!
と、頭を抱えながら登校すると学校で会うなりさくらたん、

「おはようこういち。はい、眼鏡」

なんて言って渡してきた眼鏡は、紛れもなく昨日かけていたもの。
驚く私何も言えず突っ立っていると。
感情の読み取れない笑顔のまま、くい、と腕を引っ張られ耳元で

「火遊びはほどほどにね」

それだけ言うとたたた、と駆けていきました。

眼鏡片手に立ちすくむ私。
そんな、最高に後味の悪い後日談。

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