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 あいつは、ちょっと変わった奴、で有名だった。

 誰が呼びかけても返事をしない……というか無視するのだと。そんな風に聞いていた。
 放課後、道路の真ん中で虚な目をして空を眺めているのを見た時、あぁこいつがあの変人かと妙に納得したものだ。
 あいつの目は、俺が直線道路であいつに気付いてから、奥の角を曲がる時までずっと、微動だにせず黄昏色のままだった。
 
 寒空の下でも桜は満開で、辛うじて季節は春だと認識できる。真っさらの制服の上に真冬のコートを着ていた。季節柄、こういう奴って増えるもんなのか、なんて考えたのを記憶している。

 あいつが同じ写真部だと気付いたのは今日。
 クラブの自己紹介の時だった。あいつは自分の名前さえ話せずに困った顔をしていた。
 嫌悪感を隠さない人間も少なからずいるようだった。
 一緒に活動したくないだのなんだのヒソヒソと声が聞こえた。写真部なんだしそれほど活動に影響ないんじゃね?と俺は思った。それより写真部に入ったのに自分のカメラがない事の方が気になっていた。
 ひとしきり部長の説明が終わり、今日は自由に撮りに行こうとなったようだ。俺はカメラのカタログをずっと見ていた。
 まだ桜も咲いているし、学内は真新しい景色だらけだ。カメラがあったらさぞ楽しかったろう。
 みんなが出ていった後も、俺はカタログを見ていた。スペックの比較に熱中していてひとりきりになっていることに気付かなかった。
 いや、ひとりじゃなかった。顔をあげるとあいつがいた。気付けば部室でふたりきりだった。

 目が合うとあいつは近寄ってきて俺の顔を覗き込んだ。

「……?」

 なんだ?
 手話ではない。身振り手振り、ジェスチャーだけで何かを伝えようとしているようだが、声は全く出てない。

「私 と、 つ き あ わ な い ?」

 だが俺には伝わってしまった。あいつは嬉しそうに首を縦にぶんぶん振った。
 なんてこと言う奴だ。初対面でこんな不意打ちがあるか。こいつ馬鹿じゃね?と思ったが、反射的に頷いていたオレもまた馬鹿みたいだった。

「おっ、俺でよければ…」

 彼女いない歴イコール年齢は、たった今瞬殺された。それは人生の華には違いない。サクラサクとか、なんとか、男女の事柄には使わない言葉だっけ。ああわからなくなってきた。
 
 だが、あいつについて思い出してみると、変人で名高いあいつ、という事実にも違いはないのだった。今なら、「やっぱ撤回!」とか言えるだろうか?……いや、無理だ。なんかめっちゃ喜んでるし。あいつは、歓喜のダンス?とでも名付けるべき踊りを踊っていた。

 言いようのない不安を感じる。

 桜の木の下には何かが埋まっているらしい。
 よくぞ言ったものだと思う。あいつには、俺の桜の木の下には、一体何が埋まっているのだろう、と考えた。

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